プレイベント

岩屋の星筐(ほしがたみ)

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種子島の代表的な観光の名所である「千座の岩屋」を会場にして、2015年度種子島宇宙芸術祭プレイベントでは、プラネタリウムのスペシャルイベントを開催しました。

千座の岩屋の内部にある巨大な風穴洞を舞台にして、プラネタリウム「MEGASTAR-II」が星空を、自然石の岩肌に投影し、そのなかで雅楽の笙演奏が繰りひろげられるイベントでした。タイトルの「星筐(ほしがたみ)」とは造語です。花を摘む容れ物である「花筐」から着想して、遠く宇宙からの星々をこの空間に集める様子をイメージして東野珠実さんが名づけました。

公演を終えてからふり返ってみると、「岩屋の星筺」の最初の打ち合わせ会議が印象深く思い出されます。プラネタリウム作家と笙演奏家の出会いは、まったく異質な掛け合わせでした。笙という楽器は人間の可聴域を超える高周波までふくむ音色を持っているから、洞窟の岩肌での複雑な反響音と、打ち寄せる自然の波音のコラボレーションで音の豊かさが増幅するだろうという話になりました。じつはメガスターも12等星までの星々を再現しているが、それはとても人間の目では視認できるものではない。しかしそれだけの豊かな視覚情報を持っていることが重要、と大平さん。視覚・聴覚の両面から感覚を超越した世界を夢想する二人の話が聞けたのです。話はまだ続きます。洞窟内でプラネタリウムを投影したら、そこにミニ宇宙ができあがるだろう。じつは雅楽では、笙・篳篥・龍笛がそれぞれに天の光、地上の声、空を駆ける龍として、音楽によって三位一体の宇宙の調和を象徴しているといいます。笙という楽器もまた宇宙につながる楽器であったというのは、はじめて聞きました。このイベントの運命的なものを感じたのでした。

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MEGASTAR-IIとは、プラネタリウム作家大平貴之が開発した、最新の宇宙観測データをできうる限り忠実に再現した世界最高峰のプラネタリウム装置です。大平さん自身、MEGASTAR-IIを野外に設置するのは初めて。いつもなら科学技術館にある、きれいな曲面を描くドームに投影されますが、自然の岩肌に直接投影したら、自然石のもつ複雑な造形によって、予測不可能な光の空間がそこに生まれました。これには本人も驚いて、視覚を超えた何かが、彼のなかで新たな局面をむかえたということになりました。

公演のなかで彩りを添えたのは語り部さん。広田遺跡語り部の会のみなさんによる種子島に古くから言い伝えられている「妖怪」にまつわる昔話でした。飾り気のない語りが舞台のアクセントになっていたと思います。

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(写真提供:後藤誠さん)

大自然の特別な空間性

浜田の海岸にたどり着くと、暗闇のなかに洞窟のある岩山がライトで照らし出されています。会場に向かう先をかがり火が示して、それをめざして砂浜を歩いて行けばいいのです。夏場は海水浴場としてにぎわう海岸ですが、夜のイベントではまた違った雰囲気を感じ取れたのではないでしょうか。海岸入り口に到着したときからもうすでに作品は始まっていたのです。
公演中、天候に恵まれた夜には、帰り際にはすばらしい満天の星空がありました。種子島の誇るべき星空です。岩屋のなかの小宇宙を堪能して、一方で帰り際の砂浜で頭上に果てしなく広がる星空をいただいて、大自然に包まれたイベントをかみしめるのでした。

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(写真提供:後藤誠さん)

ご存じのように、この洞窟は満潮時には立ち入ることができません。夜の干潮の時間帯をうまく見計らって公演開始時間が決定されました。公演の終了時にはまた潮が押し寄せてきます。気を抜く間もなくすべての機材と座席を撤収、翌日には再設置という大変な作業を、裏方では繰り返し行っていたのです。これらのサポートは商工会青年部を中心にしたスタッフのみなさん。献身的な作業で11月7日〜10日までの4公演を無事に終了できました。

洞窟をプラネタリウムにしてしまう発想も特別ですが、岩屋の洞窟に、しかも夜遅くにこれだけの人が洞窟につめかけたことが、これまでにあったでしょうか。千座の岩屋は重要な地元観光資源です。それに少し違った視点からスポットライトを当てると、その魅力が改めてクローズアップされたのが今回のイベントでした。地域資源の再活用も宇宙芸術祭の重要なテーマとなっています。

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大平貴之 プロフィール
プラネタリウム・クリエーター。大学3年時に、世界で初めてレンズ式プラネタリウムを個人開発。2004年、投影星数560万個のMEGASTAR-II cosmosがギネスワールドレコーズに認定。家庭用に開発し「HOMESTAR」は大ヒット商品に。和歌山大学客員教授。文部科学大臣表彰受賞。

東野珠実 プロフィール
笙(しょう)奏者。 1989年より国立劇場主催公演に参加。雅楽古典から現代音楽まで様々なジャンルの創作・演奏に携わる。国立劇場作曲コンクール第一位・文化庁舞台芸術創作奨励特別賞、日本文化芸術奨励賞受賞。2011年坂本龍一プロデュースにより、アルバム『Breathing Media -調子-』発表。